主人公は表紙絵のジミーくん。
両親やおねえさん、おばあちゃん、それにねこも一緒に暮らしています。
彼は、だれかに親切にしてもらったり、プレゼントをいただくと、ちゃんと「ありが
とう。」と言えました。
ねこが先にドアを通してくれた時でさえ「ねこちゃん、ありがとう。」と言ったので
す。
ところが、ある日、彼は「ありがとう。」と言わなくなりました。
「ありがとう。」より、お返しの「どういたしまして。」という言葉を遣いたくなっ
たからです。
そんなジミーの心を知ったママは彼に、すてきな提案をしました。
みんながジミーに「ありがとう」と言えば、ジミーは「どういたしまして」と言える
のではないかと。
そのためには、ジミーはみんなに・・・?
彼はどのようにして「どういたしまして」と、言えるようになるのでしょうか。さわ
やかであたたかなフィナーレは是非絵本でご覧ください。
子どもたちは、養育者や周囲のおとなの手を借りたり、色々なものを受け取ることが
多いので、「ありがとう」という言葉を要求される場合が多いのかもしれません。
しかし、感謝の「ありがとう」という言葉が言えるようになるには、言葉の用法を教
えてもらうだけでなく、本当は人から「ありがとう」と言ってもらい、うれしい気持
ちを覚えた時に、自らも人に対して自然に「ありがとう」と言えるのではないでしょ
うか。
また、「ありがとう」という感謝の言葉を遣うお手本になる人が身近にいると、その
言葉に倣って、覚えやすいのかもしれません。
我が子が1歳半の頃、「どんじょ(どうぞ)」と言って、色々なものを家族や親しい
おとなに手渡して、遊んだ時期がありました。周りの人が「ありがとう」と受け取る
と、子どもは、このうえなく嬉しそうな笑みを返しました。
「ありがとう」という感謝の言葉は、相手を受容する言葉でもあるのでしょう。
ですから、自分を受け容れて欲しい時に、子どもは「どんじょ」と何かを差し出し、
それを「ありがとう」と受け取ってもらって、喜んだのだろうと思います。
しかし、実生活の中では、親切を受け容れられない場合もあります。
そんな時には、相手の好意を傷つけないように、最大限の配慮をしてお断わりするよ
うにしたいと思いますが、親切を受け容れ感謝する「ありがとう」が、相手を受け容
れる言葉だからこそ、その返答の「どういたしまして」(英語で「you are welcome」)
も、尚更、相手への受容を示す言葉になる気がします。
ところで、挨拶の言葉には、「ありがとう」「どういたしまして」以外にも「ただい
ま」「お帰りなさい」「おはよう」「おやすみなさい」、その他多くの言葉がありま
す。それらは、家族の中でも個人の存在を明らかにし、家族間のコミュニケーション
を生むのに役立つのかもしれません。
というのは、私の生家では祖母と母、つまり嫁姑の関係が難しかったため、朝、母と
祖母が顔を合わせても、互いに「おはよう」も言わずに素通りしていました。それ
は、まるで幽霊のように薄気味悪かったので、子ども時代は、殊更大きな声で「マ
マ、おはよう」「おばあちゃん、おはよう」と言った記憶があります。
本書を読むと、受容的な「ありがとう」や「どういたしまして」が、儀礼的でなく押
しつけがましくもなく、うれしい言葉として、幼い読者の心にも小学生にも、あたた
かくしみこんでいくのではないでしょうか。