多くの方が本書のファンと思いますが、初めての方のために、あらすじをご紹介しま
しょう。
ある晩のこと、お月さまが空からやさしく地上を照らしていると、葉っぱの上に白く
て丸いものを見つけました。
「おや、はっぱのうえに ちっちゃなたまご」
すると次の朝、卵から生まれたのは小さなあおむしでした。
生まれたてのあおむしは、おなかがぺっこぺこ。
そこで、大きなおひさまの暖かい光を浴びて、食べものを探すことにしたのです。
これから始まるのは、食べもの探しの旅。
曜日ごとに、右側の場面に食べものが登場します。
シンプルなしかけがあり、食べものには乳幼児さんの小さな指先が入るくらいの穴があ
いているので、あおむしの食べた果物を一つひとつ指でたどることもできるのです。
月曜日はりんごをひとつ。火曜日はなしを二つ。・・・金曜日はオレンジを五つ。で
も、食べても食べてもまだまだおなかはぺっこぺこ。
ですから、土曜日の食べものといったら、見開きの画面いっぱいに10種類ものおいし
そうなもの!
乳幼児さんが知らない食べものも、絵と言葉で知ることができるのも、絵本の良さで
しょう。食べものの場面では、「ガブリ」とか「ペロペロ」「ムシャムシャ」など、
さまざまな擬態語を活用し、読み手と聴き手が食べるフリをして遊べますし、読む度
に変化をつけることもできます。
ところが、食べ過ぎたあおむしは、ついにおなかをこわして泣いてしまうのです。
子どもたちはそれをいち早く見つけ、共感性豊かな二歳児さんなどは「痛いの痛い
の、とんでけ~」と言ったり、あおむしをなでてあげたりもします。
痛いことのつらさを理解できる子どもたちにとっては、あおむしが痛くて泣く弱さを
見て、いっそう親近感を持つようです。
さあ、次は日曜日。
あおむしは緑の葉っぱを食べて、おなかの具合もすっかり良くなりました。
さらに、もうはらぺこではなくなったのです。
りっぱに太っちょな体になり、それからさなぎになって何日も眠りました。
その後の美しいクライマックスは、もう皆さんよくご存じと思いますが、是非もう一
度絵本でご覧ください。
本書には小さなサイズのボードブックもあるので、多くの赤ちゃんにとって、自分で
めくるのが楽しみなファーストブックになるようです。
ひとりでめくって見るのも、また身近な家族やおとなに読んでもらうのも、どちらも
楽しい絵本です。
私が孫息子に最初にプレゼントしたのも、確かこの絵本ではなかったかなと思います。
(ボードブック『はらぺこあおむし』をめくる6ヶ月の乳児さん)
(お父さんに『はらぺこあおむし』を読んでもらう1歳児さん)
この絵本を基に新沢としひこさんが作曲した「はらぺこあおむし」の歌もあります。
その歌を覚えて、絵本を読みながらお子さんと一緒に歌うのも楽しいでしょう。
新沢俊彦さん作曲・山野さと子さん歌う「ファミリーコンサート2016」の「はらぺこ
あおむし」がYouTubeでご覧になれます。
CD『エリック・カール絵本うた』やソングブックには「はらぺこあおむし」も含まれ
ていますので、劇などにも活用できるかもしれません。
ところで本書のように、卵が孵化し成虫になる変態の過程を一冊の美しい絵本で見ら
れるのは、子どもたちにとってうれしいことですし、楽しみながら自然科学を学べる
機会にもなるでしょう。
あおむしにとってだけでなく人間にとっても、食べることは生きることであり、成長
することにつながります。
成長したり成熟するのはとても喜ばしいことですが、その過程には、楽しいことばか
りではなく、時にあおむしのようにおなかが痛くなったり、試練を乗り越えなければ
ならないこともあるでしょう。試練を通ってこその成長もあります。
乗り越える力や方法は必ず与えられますし、さなぎのように眠ったりする段階も大切
にしながら、さらに豊かな成長が遂げられるという、健やかな人生観と希望を育める
のが、この絵本の大きな魅力ではないでしょうか。