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絵本「こうまのマハバット」のあらすじや随想

 この絵本について―子馬と少女の成長ものがたり

作・絵:市川里美

出版社:BL出版

出版年月:2020年7月

定価:1,540円(本体 1,400 円)

 
 はじめに


   コロナ禍で、自由に外出しにくい日が続いています。

   そのような夏なので、子どもたちにとってもおとなの皆さんにとっても、おおらかな

   自然の中で動物とあたたかく触れ合う本書をご紹介しましょう。

   世界を旅する作者市川里美さんは『春のうたがきこえる』『おそとがきえた!』(以

   上、偕成社刊)を初め70冊に及ぶ絵本で、さまざまな国の子どもたちと人々の暮ら

   しを描き上げ、多くの賞を受賞しています。

   
   
 あらすじと随想


   本書の舞台は中央アジアにあるキルギス共和国です。

   広い草原に放牧の民が暮らす国。

   さて、キルギスの村に住む少女ジャミーラは、初めて両親と離れ、山の祖父母のもと

   で夏を過ごすことになりました。

   迎えに来てくれたおじいちゃんと一緒に白馬に乗り、放牧する人たちのテント、ユル

   ダへわくわくしながら向かったのです。

   大草原からは、雪におおわれた山々やたくさんの馬が見えます。

   ユルダに着くと、おばあちゃんがおいしい料理を作って待っていてくれました。

   しかし、“ちいクロが戻っていない”と聞いた祖父は、すぐに飛び出して行きまし

   た。「ちいクロ」と呼ばれる黒馬は、ジャミーラを迎えに来た白馬の子どもでした

   が、母馬を捜しに出て足にけがをしたらしいのです。

   翌朝から、少女は祖父を手伝って子馬の傷の手当てをすることになりました。子馬の

   ためにできるだけのことをしてあげたいと思ったのです。

   名前も「ちいクロ」ではなく、キルギスの言葉で「愛」という意味の「マハバット」

   にしました。

   やがてマハバットは、ジャミーラの手当ての甲斐あって少しずつ良くなり、母馬や仲

   間と一緒に草原を駆けまわれるようになりました。

   夏の終わりが近づくとジャミーラは、「わたしの大好きなマハバット、元気でね!ま

   た、会おうね」と子馬をなでながら言いました。

   すると、マハバットは・・・。


   
   
 随想とまとめ


   本書は市川里美さんの繊細であたたかな絵も魅力的です。

   キルギスの広大な自然の美しさ、広々と続く草原、まぶしい陽の光、雪山を伝って流

   れてくる澄んだ水。

   祖父母の用意してくれるおいしい食事やしぼりたてのあたたかな馬のミルク。

   市川さんの絵には、ジャミーラの洋服の模様や質感までリアルに描かれ、すべてのも

   のがそこにあるかのように存在感をもっています。

   ですからジャミーラとマハバットのお互いの想いも、豊かな表情や動きを通して、伝

   わってくるのです。

   毎朝、子馬の包帯を巻き直し、小さな体でマハバットに精一杯寄り添ってあげるジャ

   ミーラの子馬への深い愛情。それだけに、ひとりで歩けるようになったマハバット

   が、ジャミーラにそれを見せにくる姿には胸が熱くなります。


   

   ジャミーラが両親と離れ祖父母のもとで過ごした夏、折しもマハバットの足の手当て

   や回復への世話という課題が与えられました。マハバットにとってもジャミーラに寄

   り添われながら、母馬から少しづつ自立し、仲間との交流を濃くする時期でした。子

   馬と少女はお互いにかけがえのない友人として自立を支え合ったのかもしれません。

   そうしたふたりをあたたかいまなざしと言葉で包む祖父母の愛。子馬と少女のひと夏

   の成長ものがたりに読者の皆さんの感動が湧き上がるでしょう。


   

   子どもたちも、5歳くらいから共感を寄せられる絵本ではないでしょうか。


   
   

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